イベント / EVENT
2024年度 第3回 リポート
イベント リポート:「10年後、同じデータを出せますか?―データ駆動科学の再現性・再利用性を考える」
2025年1月16日(木)、市民講座「情報学最前線」第3回「10年後、同じデータを出せますか?―データ駆動科学の再現性・再利用性を考える」を開催しました。講師は、藤原 一毅 准教授(アーキテクチャ科学研究系/オープンサイエンス基盤研究センター)が務めました。国立情報学研究所(東京都千代田区)での現地開催とYouTube Liveによるオンライン配信を併用したハイブリッド形式で行い、会場には43名、オンラインでは153名が参加しました。
データ駆動科学と再現性の危機
藤原准教授は、本講座のテーマであるデータ駆動科学の再現性と再利用性について、参加者の皆様とともに考える機会になればと、これらの問題にまつわる事例や体験談を紹介しました。
データは古くなりませんが、それを処理するプログラムや環境は変化するため、過去の研究結果の再現が難しくなることがあります。これは「再現性の危機」と呼ばれ、大きな課題となっています。10年前のプログラムが動かない場合、その研究成果は検証も再利用も困難です。これは科学の進展において大きな障害となり得ます。講座では、この課題に対応する技術や仕組みの重要性が強調されました。
再現性を保証する取り組み
2016年、科学者1500人のうち70%以上が「他人の実験を再現できなかった経験がある」と回答したとする記事がNatureで取り上げられました。この原因として、研究データの透明性の低さ、統計手段の誤用、および研究プロセスの構造的問題が考えられるとし、藤原准教授は、これをきっかけにオープンサイエンスと呼ばれる学術研究における新たな動きが始まったと語りました。
ソースコードやライブラリ、OS、ハードウェアなどによる「技術的な問題」や、人材の消失、ドキュメント作成の不備、組織間の連携不足といった「人的・社会的問題」に触れ、データ保存だけでなく、プログラムやその実行環境を将来にわたり再現可能にするための具体的な方法も紹介しました。また、標準化された形式でのデータ保存や、オープンソースソフトウェアの活用についても解説がありました。
今回の内容は一見すると専門的に感じられるかもしれませんが、私たちの日常生活にも関連しています。例えば、古いファイル形式が新しいソフトウェアで開けない経験はありませんか? これと同様に、研究データも適切に管理・保存しなければ、将来的に「読み取れない」「使えない」という状況に陥る可能性があります。
また、近年のAIやビッグデータ解析の発展を考えると、再現性の確保は単に研究者だけでなく、社会全体にとっても重要な課題と言えます。
NIIの取り組みと展望
国立情報学研究所は「NII RDC (Research Data Cloud)」というデータ管理サービスを提供しています。大学や研究機関向けのサービスで、データの「管理」「公開」「検索」の基本機能に加え、より高度に活用してもらうための機能を現在開発しています。
その中でも、公開データの利用を追跡する機能や、データ解析環境をクラウド上に自動構築する機能、データ集積と分析プログラムを同時にパッケージ化して提供できる機能などを紹介しました。
参加者の声
参加者からは「経験した時の苦労を思い出した」という声や、ソフトウェアの老化や再現性に関する事例に対して共感するコメントがあり、「再現性」について悩みを共有する時間となりました。
今回取り上げたテーマは、技術の問題にとどまらず、社会・経済・政治の問題まで広がります。人材育成から世論の醸成まで長期的な取り組みが重要であり、本講座が考えるきっかけになればと述べ講演を締めくくりました。
講演映像のアーカイブはウェブサイトにて公開予定です。
次回、市民講座第4回「信頼ベースで人がAIを最大限に使いこなす方法とは―このChatGPT、信頼できるの?」は、2月7日(金)に開催予定です。現地参加とオンライン配信のどちらでも参加いただけますので、ぜひお申し込みください。ご参加をお待ちしております。詳細は以下のリンクをご覧ください。
https://www.nii.ac.jp/event/shimin/
多くの方々のご参加をお待ちしております!
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