研究 / Research

情報学プリンシプル研究系

五十嵐 歩美
IGARASHI Ayumi
情報学プリンシプル研究系 助教
学位:博士(計算機科学)
専門分野:数理情報

サイエンスライターによる研究紹介

「公平な配分」の考えが情報学を発展させる
「公平性」によって得られる効果を知りたい

 ケーキをどうやって分けるか、仕事や家事をどう分担するかなど、日常生活では、さまざまな"もの"を さまざまに"分ける"場面に遭遇します。分け方はいろいろありますが、中でも私は「公平に分ける」ことに興味があります。さまざまな場面で公平性を保証するアルゴリズムを数理的に考え、さらに、この公平性を条件に分ける時、どれほど計算量がかかるかを理論的に解析しています。

公平性とは何か?~ルームシェアを例に

 何をもって「公平」とするかは今でも議論が続いていますが、良く使われるのが、「誰もが妬みをもたない状況」を達成することです。イギリス留学中に、私は1つの家を借りて何人かでシェアして暮らしていました。部屋は、広さや窓のある方角、洗面所に近いかなどの条件が異なります。各部屋の家賃の総額を、家を借りるのに必要な額にするのに、条件の違う部屋を同じ額にするわけにはいきません。この時に、必要なのが「住む人みんなが満足する公平性」です。この考え方の特徴は、広さや値段といった普通に数値で表せるもののほかに、それぞれの人の"好み"なども数値化して考慮して公平性を実現しようとする点です。驚くべきことに、参加者がどのような好みを持っていても「Sperner(スペルナー)の補題」という数学的手法を使えば、公平なルームシェアが可能であることが知られています(図)。このような公平性の研究の成果は、2014年4月のNew York Timesに掲載もされており、すでにルームシェアのアプリに応用され、実際に家賃を決める際に使われることがあります。

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図 「Spernerの補題」を使うとルームシェアの際の家賃計算が可能。頂点の位置を家賃の分け方、頂点の色を分け方が決まっている場合のもっとも望ましい部屋に対応させる。頂点の色が異なる三角形を小さくしていくと、妬みのない配分に近付けることができる。

切り分けられないものをどう配分すべきか

 分ける方法の中でもわかっていないことが多いのが、私が研究している「離散量の配分」です。離散量とは、切り分けることができない量のことで、例えば、車やテレビ、貨幣などには、それ以上細かくできない単位があります。切り分けられないものがいくつもあって、それを何人かで公平に配分するケースは、タスク割当、財産配分など、多くの状況で起こり得ます。そのため離散量配分の方法を理論的に考え、アルゴリズムを開発することが求められています。
 この研究の面白さは、前出の「Spernerの補題」のように、一見日常とかけ離れているような数学が、家賃配分のような身近な問題に応用できる点だと私は思っています。今後、曖昧に使われがちな「公平性」という概念を数学的に定義し検証することは、 情報学の他分野でも重要になると思います。


取材・構成 池田 亜希子

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