研究 / Research
情報学プリンシプル研究系
TAKEDA Hideaki
情報学プリンシプル研究系 教授/主幹
研究紹介
人間の創造性を刺激するコンピューター
人工知能研究には、"コンピューターで知能を作る"という立場と、"人間の知能の手助け
をするコンピューターを作る"という立場の2 通りがあります。私は後者の立場で研究しており、いつしか人間の創造的活動のヒントになるようなWeb の使い方を提案したいと思っています。
人工知能研究からWeb 研究へ
私は以前、「知能」のもとになる「知識」に注目して人工知能研究を行っていました。一般には頭の中にあって形として現れることのない「知識」ですが、Web 上に公開されている膨大な数の情報は"知識の集合体"といえます。1995 年頃に、このことに気が付いて以来、私はWeb について研究してきました。しかし研究を進めるにつれて、"知識の集合体"としてのWeb よりも、ダイナミックなコミュニケーションの場としてのWeb に興味が移り、今は、それをどう人間活動の役に立てるかを研究しています。
Web がもたらした社会変化
電車に乗って出かける場合を考えてみてください。以前は、使い慣れた電車の時刻表くらいは誰でも覚えていて、経験から最適なルートを考え出していました。それが今は、いつでもWeb で最適のルートを検索できるようになりました。これによって私たちが覚えなければならない情報量はかくだんに減りました。しかし、それは悪いことではありません。記憶に費やしていた能力を、より創造的な活動に振り分けることができるからです。
このようにWeb は、人間の知能の手助けをする道具として社会を変えてきました。そして、今後注目すべきは、Web がもたらすコミュニケーション手段の多様化だと私は思っています。
メールは、電話と違って相手が都合のいいときに読むことができるという点が画期的でした。
最近は、日記を他者に公開するブログや、紹介された仲間しか参加できないmixi(ミクシィ)のようなコミュニケーションの場もあります。
創造的なアイディアの多くが、他者との交流の中から生まれてくることを考えると、どんな創造的活動が生まれてくるかは、Web をコミュニケーションの場としてどう利用するかにかかっているのです。
セマンティックWeb の実現を目指して
今は、次世代Web として欧米で開発が進んでいるセマンティックWeb の研究を日本でも立ち上げようとしています。セマンティックWeb の基本原理は、Web を含むあらゆる情報の意味を、機械が読めるように記述しておき、人間のかわりをするソフトウエア(エージェエント)で自動処理することです。例えば、「アップル」というキーワードで検索を行うと、今のWeb では果物なのか会社名なのか判断できないために、両方の情報が検索結果として示されます。ユーザーが意味付けをしてやる必要があります。セマンティックWeb ではこの作業が自動処理されるので、ユーザーが欲する情報を効率的に手に入れることができるようになります。
私が目指している"人間の創造的活動のヒントになるWeb"の実現にはまだまだ長い道のりですが、セマンティックWeb がその第一歩になると信じています。