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ニュースリリース
写真からの指静脈パターン復元を防止する手法を提案
~コンピュータセキュリティシンポジウム 2018 優秀論文賞を受賞~
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII、所長:喜連川 優、東京都千代田区)の情報社会相関研究系教授 越前 功(えちぜん・いさお)の研究チームは、生体情報である指静脈パターンが写真から復元されるのを防止する手法を開発しました。今回提案したのは指に透明シールを装着する手法です。装着したまま指静脈認証が可能という利便性を確保しつつ、写真からの指静脈パターンの復元を防止できるため、意図しない生体情報の復元を防ぐことが可能になります。
本研究成果は「コンピュータセキュリティシンポジウム 2018」で優秀論文賞を受賞しました。
背景
生体認証の手法のひとつである指静脈認証は、銀行ATMなどの個人認証で広く活用されています。指静脈は皮膚の下にあるために可視光での判読は難しいとされ、指静脈認証装置では近赤外線が使われてきました。ところが、2016年には可視領域で撮影した複数の指の画像を使った指静脈認証の手法が提案されており(*1)、可視画像から指静脈パターンを復元できることも知られていました。
研究手法・成果
研究チームは、市販デジタルカメラの画像からの静脈の検出を妨害する人工的な偽の指静脈パターンである「ジャミングパターン」を印刷した透明シールを開発しました(図1)。
〈図1〉指静脈パターンの取得を防止する透明シール
近年の市販デジタルカメラは高画素化しているため、写真をもとに復元した指静脈パターンにより、指静脈認証システムが破られる可能性がでてきていました。そのため、写真からの指静脈パターンの復元防止が求められていました。
写真からの復元を防止できたとしても、手袋のように認証のたびごとに外すのでは実用的とはいえません。それに対して、この透明シールは実用性を考慮した次の3要件を満たしています。
- 撮影された写真からの指静脈パターンの復元を防止
- 装着した状態で、ATMなどの認証装置では引き続き指静脈認証が可能
- ユーザーの意思により簡単に着脱可能で、認証システム等の改修の必要がない
このシールは、可視光と近赤外線の両方が透過する透明なベース素材の上に、人工的な偽の指静脈パターンである「ジャミングパターン」をプリントしています。このシール上のジャミングパターン部分では、可視光を反射する一方、近赤外線を透過します。指に装着して可視領域で撮影すると、ジャミングパターンによりユーザー本人の指静脈の一部が見えなくなりジャミングパターンが重なって撮影されます(図2左)。そのため、市販デジタルカメラで撮影した写真からは装着者の指静脈パターンを復元できません。逆に近赤外領域を利用する読み取り装置ではジャミングパターンが見えないことから、装着者の指静脈パターンそのものが復元できます(図2右)。
指静脈パターンなどの生体情報は「忘れることがない、紛失することがない」という個人認証での利便性がある反面、盗まれた場合でも認証情報を変更できないという問題を抱えていました。その問題に対して、この透明シールは装着していると気づかれにくいため、日常生活を阻害することなく「盗まれることがない」利便性を向上させることができます。
〈図2〉可視領域および近赤外領域におけるジャミングパターンの妨害効果
今後の展望
本研究成果は、指静脈認証の読取可能性に実用的な影響を与えずに写真からの指静脈パターンの復元を防止できることを示しました。今後は、本手法の有効性をさらに検証するとともに、様々な生体情報を対象にした手法の検討を進めることにより、社会における生体認証技術の安全性・信頼性確保に寄与していきます。
越前 功教授からのコメント:
「本研究成果は、指静脈認証の読取可能性に実用的な影響を与えずに写真からの指静脈パターンの復元を防止できることを示しました。今後は、本手法の有効性をさらに検証するとともに、様々な生体情報を対象にした手法の検討を進めることにより、社会における生体認証技術の安全性・信頼性確保に寄与していきます。」
研究プロジェクトについて
本研究成果は、日本学術振興会 科研費JP16H06302、JP18H04120の助成を受けたものです。
論文タイトルと著者
- タイトル:「可視画像からの指静脈認証のなりすまし可能性の検討とその対策手法」
- 著者:大金 建夫、越前 功
- 掲載誌:情報処理学会コンピュータセキュリティシンポジウム 2018 (CSS2018) 論文集
- 発表日:2018年10月23日
※CSS 2018において優秀論文賞を受賞しました(10月24日発表)
関連リンク
ニュースリリース(PDF版)
写真からの指静脈パターン復元を防止する手法を提案
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