研究 / Research

科学研究費助成事業(科研費)― 基礎から応用までのさまざまな研究に挑戦 ―

科研費は、研究者の自由な発想に基づいて行われる学術研究を広く支える資金であり、基礎から応用までの幅広い学術研究を対象としています。教員・研究員ともに、科研費の応募を積極的に行っており、多数採択されています。
また、獲得した科研費を他の研究機関の研究者(研究分担者)へ配分し、連携のもとで研究に取り組んでいます。
同様に、他の機関の研究者が獲得した科研費にも、研究分担者として多くのNIIの教員が参画しています。

採択状況(2024年度)

採択件数 金額(千円)
研究代表者 57 384,752
研究分担者(他機関→NII) 64 57,994

【科研費による研究事例】

サイバーワクチン:生成AIによるサイバー脅威を克服する基盤技術

 基盤研究(A) 

情報社会相関研究系 教授/主幹 越前 功

AIの技術進化と計算機資源の充実により、顔、身体、音声などの人間由来の情報を大量に学習することで、本物と見紛うフェイク映像、フェイク音声といったフェイクメディアの生成が技術的に可能となり、世界的な脅威となっています。研究代表者はフェイク顔映像の検出手法を世界で初めて提案し、実用化してきましたが、実用化の中で、フェイクか否かの真贋判定だけではなく、改ざんされた箇所や改ざん前のオリジナルは何なのかといった来歴情報の提示や、AI の学習に用いられないように、第三者による意図しないメディアの自動収集や解析を防止することが、本質的な課題であることを認識しました。そこで本研究では、画像・映像、音声メディアに対して、メディアの品質を維持しながら前処理を施すことで、上記の課題を解決する「サイバーワクチン」という技術群を提案します。AI による改ざんを受けてもオリジナルを復元可能なオリジナルレストア型(R 型)ワクチンと、AI による解析自体を不能にする解析不能型(I 型)ワクチンを開発し、生成AI によるサイバー脅威を克服する基盤技術を確立します。

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AIに対する人間の過信・不信メカニズムの実験的解明と過不信予防AIへの応用

 基盤研究(A) 

研究代表者:コンテンツ科学研究系 教授 山田 誠二

ChatGPTや自動運転の普及により人間-AI協調意思決定が日常的になるに伴って、新たな課題が顕在化してきた。その課題の一つとして、人間がAIを信頼し過ぎてしまう過信と逆に過度に信頼しない不信がある。この過不信を抑制するために、本研究では『AIに対する人間の過不信に注目し、認知モデリングによってそのメカニズムを解明し、それを予防できるAIを構築する』。提案する過不信予測モデルは、要因と因果関係からなるグラフで表現され、設計者がトップダウンに設計できる過不信の発生予測モデルである。そして、このモデルに基づき過不信を予防可能なAIシステム:Pot-AIを提案する。Pot-AIは、過不信の発生を予測し、適時予防キューと呼ばれる刺激をユーザに表出することで過不信をあらかじめ抑制できる。予防キューの設計には、人間の主体性を担保して行動変容を促すナッジ技術が用いられる。そして、リアルタイムな過不信回避が必須である自動車やドローンの自動運転(レベル3)にPot-AIを実装し、参加者実験により過不信予測モデルおよびPot-AIの有効性を検証する。

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並行・並列プログラミングのためのスケーラブルな自動プログラム検証技術

 基盤研究(A) 

研究代表者:アーキテクチャ科学研究系 准教授 関山 太朗

膨大なデータや通信の処理が必要となる近年のソフトウェアシステムにおいて、並行・並列処理を適切に行うことが重要となっている。しかし並行・並列処理はシステムの実行順序や状態の可能性を爆発的に増大させるため、正しく動く並行・並列ソフトウェアシステムを構築するのは、並行・並列処理を行わない逐次実行的なソフトウェアを開発するよりも極めて困難となる。本研究は並行・並列処理を行うソフトウェアシステムの安全性を保証する上で重要となる時相的・状態依存的性質といったプログラムの詳細な性質の検証が可能な、型システムをベースとしたプログラム検証技術の実現を目指す。型システムはソフトウェア全体の検証をその構成部品の検証に帰着でき、大規模システムにも比較的容易にスケールすることが知られている。本研究では型システムを応用した大規模な並行・並列システムの検証に取り組む。

冗長な観測のマルチビュー学習に基づく信頼性の高い三次元センシング技術の開発

 基盤研究(B) 

研究代表者:コンテンツ科学研究系 准教授 池畑 諭

近年、生成AIは3次元計測分野にも大きな影響を与え、一枚の画像から被写体の完全な3次元形状を復元したり、任意の視点を生成できるようになった。しかし、限られた観測からの生成AIによる3次元情報は物理的に正確とは限らず、知識に基づく情報捏造が多く含まれる。そのため、ミリメートル単位、あるいはそれ以下の分解能が求められる産業計測には適さない。そこで、本研究では、「異なる波長の画像」、あるいは「光」と「音」など、同じ被写体を観測する複数の冗長な情報を組み合わせることで、情報捏造を最小化し、信頼性の高い高精度な3次元計測を実現することを目指す。異なるモダリティの情報を組み合わせることは容易ではなく、我々は生成AIなどの大規模モデルが持つ知識を活用したマルチビュー学習を用いる事でこれを実現する。

大規模分散システムにおける自律制御と安全性確保に関する研究

 基盤研究(B) 

研究代表者:アーキテクチャ科学研究系 教授 計 宇生

次世代無線通信システムの実現のためには、ネットワークに高度な知性と自律性をもたせ、自己組織化、自己管理、自己最適化能力を具備させる必要がある。本研究では、機械学習を用いた無線通信システムのリソース制御に関するこれまでの試みを踏まえ、実用に備えるための新たな課題を解決する。無線通信システム上の分散学習と自律制御メカニズムについて、自律分散システムとしての特長を十分に発揮しながら、潜在する安全上のリスクを回避できる枠組みを構築する。そのために、分散学習システムの完全性の保全、マルチエージェント学習を用いた自律的リソース割り当て、自律制御システムにおける公平性の担保のための研究を実施する。それらを通して、無線リソース利用効率の向上、動的なアクセス制御、学習・制御システムの完全性と公平性の保証を実現する。

文書の階層的アラインメントによる分散型知識基盤の構築

 基盤研究(B) 

研究代表者:コンテンツ科学研究系 教授/研究主幹 相澤 彰子

文書の理解とは、その記述内容を他の情報と紐づける過程である。たとえば研究者が論文を読む場合、論文内の記述を他の論文と読み比べて体系的に整理することで、アプローチの詳細、実験条件、評価方法、対応できていない課題など、実践的に活用できる知識が得られる。しかし現実には、文書ごとに同じ対象物や概念を異なる表現で参照している場合も多く、文書横断的に正確に知識を対応付けることは、いまだ課題である。本研究では、異なる書き手が異なる文脈で生成する情報を互いに関連付けるアラインメント手法を提案し、複数文書要約や質問応答における有効性を検証する。また、提案手法を大規模な論文コーパスに適用し、獲得した知識を大規模言語モデルに埋め込むことで、ユーザの文書理解や活用を支援する知識基盤の構築をめざす。

意思決定・知識発見を行うアルゴリズムの低感度化

 基盤研究(B) 

研究代表者:情報学プリンシプル研究系 教授/所長補佐 吉田 悠一

意思決定や知識発見の手段として、大量のデータから結果を導くデータドリブンなアプローチが一般的になってきており、データから意思決定や知識発見を行うさまざまなアルゴリズムが広く用いられている。しかしデータの収集を行う際に欠損・ノイズの混入・時間変化などが起こるため、与えられたデータが常に「正しい」とは限らない。この様な状況下で、アルゴリズムの感度が高い、すなわち入力の微小な変化に対して出力が大きく変化すると、安全性・効率性・再現性が損なわれてしまう。この状況を打破するために研究代表者は2021年にアルゴリズムを感度の観点から研究することを提唱した。本研究では、意思決定や知識発見における問題に対して感度が理論的に低いアルゴリズムを構築し、その有用性の実証を行う。

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