【概要】
「世界中で公表される全ての論文を即座にオープンアクセス(OA)化できる」。恒常化した学術雑誌の価格上昇により,購読規模を大幅に縮小せざるを得ない大学が相次ぐ中,2015年にMax Planck Digital Library(MPDL)によって導き出された結論である。MPDLは,「世界で公表される年間200万本の論文をOAにするために著者が支払う費用(Article Processing Charge,APC)と,各国で雑誌を購読するために支払っている年間購読料の総額を比べると,APCの方がはるかに安くすむ,だから歩調を合わせて購読料をAPCに振り替えよう」と世界に呼びかけている(※1)。 2016年には,これをもとにしたイニシアチブであるOA2020が創設され,以降世界中から109の機関が関心表明に署名している(※2)。日本でも大学図書館コンソーシアム連合(Japan Alliance of University Library Consortia for E-Resources,JUSTICE)と(※3),物性グループがそれぞれこの関心表明に署名した(※4)。
このOA2020をきっかけに,既存の購読モデルの撤廃とOAを可能にする新しいモデルへの試験的な取り組みが始まっている。例えばヨーロッパでは,著者が個別に支払っているAPCを大学が一括して先に支払うことで,本来の購読料やAPCの割引を可能にするなどのオフセット契約が結ばれている。ただしこれも完全なOAを実現するまでの過渡期においては,購読料に加えて追加費用がかかり続けることになり,依然として各国においてOA2020の世界を実現するための持続可能なOAモデルへの模索が続いている(※5)。日本においても,JUSTICEや一部の大学で研究者が負担するAPC額の調査が進められており(※6),新たなOAモデルの構築に向けた検討を始める段階にある。
本セミナーは,OA2020について,基本的な理念やOAに至るまでのロードマップなどを参考にしながら,大学図書館や研究者にとって,日本における最適なOAモデルへの移行方法を考えるきっかけとなるような情報共有の場を提供することを目的とする。
※1 http://www.berlin12.org/
※2 https://oa2020.org/mission/
※3 http://current.ndl.go.jp/node/32308
※4 http://bussei-group.org/oa2020expressofinterest/
※5 https://doi.org/10.20722/jcul.2015
※6 同上
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